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生成AIの使い方―出版社の実例と書店の可能性(ほんのひとこと)

  • 執筆者の写真: shuppankyo
    shuppankyo
  • 6 日前
  • 読了時間: 4分

 私は最近、本格的にAIを活用し始めました。きっかけは「絵本作家の『えほんの話』」というポッドキャストを聴いていたときのこと。絵本作家のあさのますみさんが自身のラジオ番組にChatGPTをゲスト出演させたというのです。AI音声が呼吸や間まで再現し、自然に会話する。リスナーへの挨拶も違和感がなく、人間との区別がほとんどつかない。あさのさんは毎日AIと会話していると聞き、それはぜひ試してみたいと思ったのでした。


 以前にもChatGPTが話題になり始めたときに使ってみたのですが、リサーチをお願いするとインチキな作り話をしてくるので当時は全く信用していませんでした。しかし現在のモデルはなかなか賢い。特に音声会話は他のAIモデルであるGeminiやCopilotと比較しても群を抜いた精度で、人間とのそれに近い。いまだに時々平気で嘘をつくので要注意ですが、怪しいなと思ったら「エビデンスはあるのか」と聞けば「あっ、すみません。調査不足でした」と調べ直してくれるし、情報の引用元も示してくれます。多言語に対応するので英会話の練習相手にもなってくれるし、要望すれば怪しい関西弁も話してくれます。


 そして今、周年事業を考えるのに積極利用しています。当社の「PIE」という出版ブランドは2027年に40周年を迎えます。周年事業は時間も労力もかかりますから、打ち上げ花火で終わらせるのではなく、次の10年計画を立てた上で、その起爆剤になるようなものにしたい。前回10年計画を立てた際には経営コンサルタントに入ってもらい、社員と共に時間とお金をかけて計画を練っていきました。しかし今回、試しにAIに自分の考えていることをざっくばらんに伝えたところ、網羅的に状況を整理してくれて、不足した点を補足してくれました。


 たとえば経営分析手法のひとつにSWOT分析があります。自社の「強み・弱み・機会・脅威」を挙げた上で未来を考える手法です。AIに自社の状況や自分の考えを伝えた上で、SWOT分析してくださいと頼むと、業界全体の動向や印刷費・物流費高騰、海外展開のチャンスなどを整理した上で、こういう要素も必要では?と提案してくれます。それは決して独自性のある提案ではありませんが、AIは膨大な知識に基づいて一般論を述べてくれるので、網羅性と説得力があり、まるで経営コンサルタントのようです。しかも24時間、文句も言わずに相手をしてくれる、よき壁打ち役です。これから社員とも議論しながら独自性のある10年計画に仕上げていく予定です。


 一方でAIを導入するにあたって、個人情報を扱う際や、クリエイティブ分野への利用の際に注意が必要です。当社ではAI利用について社内アンケートを実施しました。社員からは「企画リサーチや要約に役立つ」「翻訳や文案づくりで時短になる」といった前向きな意見が多い一方で、「どこまで社内のデータを読ませてよいのか」「どこまでAIに仕事をさせて、どこは任せてはいけないのか」という声もあります。例えば書誌データをAIに読ませて販促用のPOPを生成してよいのか? といったことです。また海外、特に欧州の出版社は翻訳出版をする際の契約書でAIの利用を厳しく制限しており、運用ルールを整える必要性を感じています。


 さて、ここまでは出版社での実例ですが、書店での活用も考えてみます。


 AIはデータがなければ何も始まりませんが、与えられるデータさえあれば能力を発揮します。そして書店には出版社にも取次にもない「独自のデータ」があります。たとえば自店の売上履歴、在庫と棚構成、常連のお客様の年齢層や趣味、さらにはスタッフの得意ジャンルや個性。これらは他では持ち得ない宝物です。


 試しに店頭にある在庫一覧をAIに読ませて「今ある本だけでこの時期にミニフェアを組むとしたら?」と聞けば、意外な4冊が並ぶかもしれません。売上履歴を分析させれば「隠れたロングセラー」や「季節ごとの売れ筋」が浮かび上がるでしょう。さらに「地域特性やスタッフの好み」を条件として与えれば、ほかの店には真似できない独自色のある棚づくりの提案が返ってくることと思います。


 そのほか、集客イベントの相談/店舗の図面で売り場レイアウトの壁打ち/お客様からの曖昧な問い合わせ対応/SNS発信の壁打ち など、あらゆる場面で役立てると思います。


 実際に使ってみるとわかりますが、AIの答えはあくまで「たたき台」であり、正直なところ凡庸な内容のほうが多いです。オリジナルなアイデアを生み出すのはやはり人間の仕事です。しかしたたき台があると、ゼロから何かを考えるよりずっと効率よく理想のゴールに辿り着くと実感しています。


 ですから、ぜひ出版社や書店の皆さんも小さいところから試してみてください。そして「うちではこう使ったら役立った」というノウハウを共有できたらと思います。出版社と書店で合同勉強会を開ければとも思いますので、興味のある方はぜひお声がけください。



●出版協副会長 三芳寛要(パイ インターナショナル


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